保坂サイコオンコロジー・クリニック院長 保坂隆先生にお話をうかがいました。
Q. 乳がんの治療は、5~10年続くケースもあると聞きました。どのような心のケアを心がければ、治療を乗り越えられますか。
A. 年齢や病状によって適切な心のケアは異なりますが、前提として「乳がんは慢性疾患である」と捉えたほうが良いと思います。
慢性疾患とは、治療や経過が長期に及ぶ疾患の総称のこと。糖尿病や高血圧、高脂血症などがその典型例ですが、いずれも定期的な治療を受けていれば死に至ることはほぼありません。
乳がんも同様で、医療技術の進歩により死に直結するケースは非常に少なくなりました。たとえ長期に渡ったとしても「悪化や転移を避ける治療」だと考えれば、緊張感も和らぐのではないでしょうか。
加えてお伝えしたいのは、無病息災ならぬ「一病息災」という考え方です。
病気をきっかけにそれまでの食生活や暮らしぶりを見直し、改善に努める患者さんもいます。結果として無病だった頃よりも豊かな生活を送れている場合もあるのです。
乳がんの罹患年齢は40~60歳がピークですが、特に50歳前後の患者さんに対しては「人生をリセットする時期」にしてはどうかとお話ししています。一般的に、診療から半年間は辛い治療となりますが、これを人生の第一幕が終了した“幕間”だと捉え、今後の生き方を考える時間にする。仕事、家庭、人間関係……思考する要素はたくさんあるはずです。こうして心の整理をしておくと、前向きな気持ちで第二幕を迎えることができます。
「他の臓器にがん転移が認められた」などステージが進行している場合には、2~3年後の未来に向けた目標を立てるといいでしょう。「娘の結婚式に参列する」「孫の入学祝いをする」など“誰が何をするのを見たいか”を具体的に描くのがポイントです。日々の暮らしに張りが出ますし、気持ちがポジティブになって免疫機能も高まります。
目標が無事達成したら、さらに2~3年後の目標を設定するとともに、人生の北極星、つまり自分の価値観がどちらの方向にあるのか、今一度確かめることをおすすめします。例えば「愛のある家族を築きたい」とか「社会に何が寄与できるか考えてみたい」など、自らの道しるべを再確認することが、生きる原動力につながります。
≪お答えいただいた専門家≫
保坂 隆先生
保坂サイコオンコロジー・クリニック 院長